臨床心理士hanaのひとり妄想diary☆

総合病院勤務です。世の中の出来事を、いち臨床心理士の視点からいろいろ妄想しつつ、考えてみたいと思っています。

なぜ朝霞の行方不明中学生女子は、逃げ出さなかったのか?改めて考えてみました。

こんにちは!葉菜です。

 

埼玉県朝霞市で2014年3月から行方不明だった中学生女子が無事に保護されたニュース。

本当に本当によかったですよね!彼女の勇気ある行動、そして2年間信じて待ち続けた家族や関係者・・・。考えただけでも、こちらの胸が熱くなります。

容疑者である寺内容疑者も捕まり、これから本格的な取り調べが行われます。

この事件の罪は非常に大きく、しっかり法の裁きを受けてほしいものです。

 

さて、ネットやテレビでは

「なぜ2年間もの間、少女は逃げ出さなかったか?」

が話題になり、たくさんの方が意見されていますね。今日はいち心理士として、その辺りを考えてみようと思います。

 

「逃げることが出来なかった」

とあるテレビ局の男性陣は「彼女は賢いし安心していたので逃げなかった」と、彼女が主体的に逃げる選択をしなかったという内容の発言をしたようですね。

これは彼女の状況も気持ちも全然理解できていないゆえの発言だと私は感じてしまいます。またこれらの意見は別の視点も与えてくれていると思います。それは後半書きます。

 

「逃げなかった」のではなく、「逃げられなかった」のではないでしょうか。

では、なぜ逃げられなかったのか?葉菜なりに考えてみます。

 

 

・学習性無力感

テレビでも犯罪心理学の先生などがこの言葉を挙げていました。私も同感です。この学習性無力感とは心理学の用語で「努力を重ねても望む結果が得られない経験・状況が続いた結果、何をしても無意味だと思うようになり、不快な状態を脱する努力を行わなくなることコトバンクより引用)」という意味です。あまり馴染のない言葉かもしれませんが、私たちの日常生活でも多くあることではないでしょうか。

例えば職場。「上司に何度も待遇改善を求める」→「毎回はぐらかされて、上司は取り合ってくれない」→「言っても何も変わらない・意味がないと思う」→「会社・上司に期待することを諦め、何も言わないようになる」・・・。

こういう心境の方、少なくないと思います。

 

彼女も最初は、逃げ出そうと色々画策したことでしょう。しかし多くの脅しや逃亡の失敗(心の中の計画も含め)を繰り返すうちに、「逃げる」という選択肢を諦めた可能性があります。この「諦める」行動の中には絶望感・無力感などが含まれており、決して納得しての結論ではありません。どうしても変えることが出来ない辛い環境に「なんとか適応していくための」苦肉の策、のようなものです。

ではなぜこのような状況に無力感と共に適応しようとするのか・・・それは

「生きるため」

ではないでしょうか。

これ以上の抵抗は自分の命が危なくなる、という危機感。学習性無力感の背景には「生き残るため」という決死の覚悟があるのでは?少なからず今回の中学生女子には、そうだったのではないか・・・と勝手に想像してしまいます。

 

・中学生1年生にとって大学生は「大人」である。

当時の年齢を中学生女子:13歳、寺内容疑者:20歳としましょう。7歳差ですね。大人になると7歳差ってそこまで気にならないと思います。もちろん多少の上下関係はありますが。

ただ学生の時期の7歳差って、ものすごく大きいと思いませんか?私が中学生の時は、親戚の大学生のお姉さんは「大人」でした。かたや中学1年生は、性格的にも能力的にもまだ子どもです。どんなに彼女が賢くても、相手は千葉大の男子学生。知的にもその他の面でも勝てません。寺内容疑者の言葉をまともに受けてしまう年齢だと思います。

 

・逃げたけど「また捕まえられてしまったら・・・」という恐怖。

昨日のtwitterでも少しつぶやきましたが、いじめを苦にした中学生が「なぜ誰にも相談しなかったか?」とか、ブラック企業に勤めていて仕事を苦に自殺を図る会社員に対して「なぜ会社を辞めようとしなかったのか?」と、今回の事件の「なぜ彼女は逃げようとしなかったのか?」の理由はほぼ一緒だと感じています。

それは「その後が怖いから」かな、と。中学生のいじめの場合だと、誰かに相談したことがイジメっ子側にバレて更なるいじめに遭うのではないか・・・という、相談のその後が怖いから誰にも何も言えないわけですよね。

今回の場合だと逃亡が失敗した場合、更なる厳しく辛いことが起きるのではないか・・・という不安が生じていたと考えられます。これはこういう状況になれば誰でもこのような心境になると思います。

 

 

とあるテレビ局男性陣のコメントから見えてくるもの

ネットでは批判が出ていますね。私も同感です。ただ心理士として違うことも考えました。まさにこの心境は

寺内容疑者と同じ心理ではないか

と言うことです。

寺内容疑者は転居先の中野の住居には、特に鍵に細工をしなかったようですね。前の家では彼女が脱走しないように、内側から鍵が開けられないように細工をしていたようですが。

明らかに寺内容疑者にスキがあったわけです

ではなぜ、このようなスキを彼は作ってしまったか。

それは中学生女子が、学習性無力感などの心境から寺内容疑者の元を離れなかったため

「彼女は自分の意思でここにいる、それなりに安心感を持っている」等

テレビ局の男性陣と同じような視点から、中学生女子のことを考えていたからではないかな、と思いました。

 

中学生女子はこれから、周りの方のサポートを受けながら日常生活を取り戻していくことになります。

今は保護直後で久しぶりの両親や親しい人との再会で、少し気分が高揚気味かもしれません。しかししばらくたって、少し生活に落ち着きが出てきたごろから、彼女の「心の折り合い」のプロセスが始まると思います。

とても時間が掛かるものですし、時間を掛けていいものだと思うので、なんとか折り合いを付けてこれからの人生を歩んでほしい、と願わずにはいられません。

 

今日もありがとうございました☆

 

葉菜